借地権、地主の苦労とトラブル

2025.07.18
コラム

借地権の悩み、地主が抱える苦労とトラブルの解決方法は・・・

「先祖代々の土地を貸しているが、地代は雀の涙ほど。それなのに、土地は返ってこず、トラブルばかり…」

これは、借地権が設定された土地を持つ地主(底地所有者)の方々が抱える、決して他人事ではない悩みです。
建物の所有を目的として土地を貸す「借地権」は、一見安定した土地活用のように思えますが、その裏側には地主の多大な苦労と複雑な法律問題が隠されています。
特に1992年に借地借家法が改正される前の「旧法借地権」は、借地人の権利が非常に強く、
「一度貸したら最後、土地は半永久的に返ってこない」とまで言われるほどです。

この記事では、借地権、特に地主側が直面する深刻な苦労や、借地権者・近隣住民との間で発生しがちなトラブルについて、その具体的な事例と法的な対抗策、さらには将来を見据えた予防策までの解説をします。
あなたの悩みを解決するための一助となれば幸いです。

「貸したら最後」は本当か?地主が直面する5つの苦労

なぜ地主はこれほどまでに追い詰められてしまうのでしょうか。
その理由は、収益性、権利、税金など、多岐にわたる構造的な問題に起因します。

1. 異常に低い収益性

最大の苦労は、土地という高価な資産から得られる収益が極端に低いことです。
借地契約における地代は、多くの場合、固定資産税・都市計画税の3倍から5倍程度に設定されています。
周辺の月極駐車場やアパート経営の収益性と比べると、その差は歴然です。
さらに、特に旧法借地権では、契約当初の地代のまま何十年も据え置かれているケースも少なくありません。
地代の値上げを請求する権利(地代増減請求権)は法律で認められていますが、借地権者の同意が必要であり、交渉は難航しがちです。
最終的に調停や裁判に発展することも多く、その労力と時間を考えると、多くの地主が泣き寝入りしてしまっているのが実情です。

2. 半永久的に返還されない土地

「一度貸したら返ってこない」という言葉は、特に旧法借地権の性質を的確に表しています。
旧法では借地人の保護が手厚く、地主が契約の更新を拒絶するには、自らがその土地を使用しなければならない切実な事情などの「正当事由」が必要です。
しかし、この正当事由が裁判で認められるハードルは非常に高く、たとえ高額な立退料の提供を申し出たとしても、更新が認められてしまうケースがほとんどです。
借地権は相続の対象となるため、地主も借地人も世代が代わり、契約関係だけが半永久的に続いていくのです。

3. 土地活用の完全な制限

土地の所有権は地主にあるにもかかわらず、その上には借地権という強力な利用権が設定されています。
これにより、地主は自らの土地を自由に使用することはできません。
「この土地に自分で家を建てたい」
「更地にして高く売りたい」
と思っても、借地人がいる限りは実現不可能なのです。
所有者でありながら、その土地の活用方法を一切決められないというジレンマは、地主にとって大きな精神的負担となります。

4. 売却困難な「底地」

では、借地権が付いたままの土地(底地)を売却すればよいのではないか、と考えるかもしれません。
しかし、これもまた非常に困難な道です。
底地を購入するメリットがあるのは、隣接地主や、将来的に土地を完全に所有したいと考えている借地権者本人くらいです。
第三者から見れば、自分で使えず、収益性も低く、トラブルのリスクを抱えた底地は魅力に乏しく、買い手を見つけるのは至難の業です。
仮に売却できたとしても、その価格は更地価格の10%~15%程度という、二束三文の値段になってしまうことがほとんどです。

5. 相続時の三重苦「高額な税金・物納不可・遺産分割トラブル」

問題は相続時にさらに深刻化します。

  • 高額な相続税
    底地は市場での売却価格(実勢価格)が非常に低いにもかかわらず、相続税を計算する際の評価額(路線価を基に計算)は比較的高く算出されます。
    その結果、「売れないのに税金だけは高い」という理不尽な状況に陥ります。
  • 物納の困難さ
    高額な相続税を現金で払えない場合、土地そのもので税金を納める「物納」という制度があります。
    しかし、底地は管理や処分が困難な「管理処分不適格財産」と見なされやすく、物納が認められないケースもあります。
  • 遺産分割トラブル
    これらの問題から、底地は相続人の間で「負動産」として押し付け合いの対象となりがちです。
    共有名義にすれば、将来の意思決定がさらに複雑化し、親族間の紛争の火種となってしまいます。

【事例別】借地権者との典型的なトラブルと法的対抗策

地主の苦労は、借地権者との直接的なトラブルによってさらに増幅します。
ここでは代表的な4つのケースと、地主が取るべき法的対抗策を解説します。

ケース1:契約更新と更新料

トラブル: 契約更新のタイミングで、「土地を返してほしい」と伝えても応じてもらえない。
あるいは、慣習として請求してきた更新料の支払いを、借地人の代替わりを機に拒否された。

対抗策

  • 更新拒絶と正当事由
    前述の通り、普通借地権(新法・旧法問わず)の更新拒絶には「正当事由」が必須です。
    地主側の自己使用の必要性が高く、かつ、借地人の状況に配慮した十分な額の立退料(更地価格の60~70%に借地権価格を加味して算出されることも)を提供することで、ようやく認められる可能性があります。
    単に「売りたいから」といった理由ではまず認められません。
  • 更新料
    更新料には法律上の支払い義務はありません。
    請求できるのは、契約書に「更新料を支払う」という特約が明確に記載されている場合に限られます。
    特約がないのに請求しても法的な強制力はなく、支払いを拒否されたことを理由に契約を解除することもできません。
    トラブル防止のためには、契約締結時に必ず書面で合意しておくことが重要です。

ケース2:無断での増改築・建て替え

トラブル: 借地人が地主に無断で、木造の家を鉄筋コンクリート造に建て替えたり、居住用の建物を店舗に改築したりした。

対抗策

多くの借地契約には「増改築禁止特約」が含まれています。
これに違反する行為は、地主との「信頼関係を破壊する」ものとして、契約解除の正当な理由となり得ます。
ただし、畳の交換や壁紙の張り替えといった小規模な修繕程度では、信頼関係の破壊とは認められません。
契約解除が有効となるのは、建物の構造や用途を根本的に変えるなど、地主の不利益が大きい重大な違反の場合です。
借地人が建て替えを希望し、地主がそれを承諾する場合は、「建て替え承諾料」として更地価格の3%~5%程度を請求するのが一般的です。

ケース3:借地権の無断譲渡・転貸

トラブル: 知らない間に借地人が第三者に変わり、その人物が土地の上に住んでいた。
あるいは、借地人が建物を第三者に貸していた(又貸し)。

対抗策

借地権を第三者に譲渡したり、土地を転貸したりするには、法律(民法612条)により地主の承諾が必要です。
無断で行われた場合、これは明確な契約違反となり、地主は契約を解除することができます。
ただし、判例では、譲渡相手が借地人の配偶者や子であり、実質的な利用状況に変化がない場合など、「信頼関係を破壊するに至らない特段の事情」があると判断され、解除が認められないケースもあるため注意が必要です。
譲渡を承諾する際には、「譲渡承諾料(名義書換料)」として借地権価格の10%程度を請求するのが慣例となっています。

ケース4:契約終了時の土地明け渡し

トラブル: ようやく契約期間が満了し更新もされなかったのに、借地人が「建物を時価で買い取れ」と要求してきた。

対抗策

これは借地人に認められた「建物買取請求権」という強力な権利です。
普通借地権において、契約が更新されずに終了した場合、借地人は地主に対して、建物を時価で買い取るよう請求できます。
この権利が行使されると、地主は原則として拒否できず、更地での返還を求めることはできません。
この強力な権利への唯一の対抗策は、借地人の契約違反(債務不履行)を理由に契約を解除することです。
例えば、地代の滞納が長期間にわたって続いた場合など、借地人の側に明確な落ち度があって契約を解除したケースでは、借地人は建物買取請求権を行使することができず、建物を収去して土地を更地で返還する義務を負います。

借地が原因の近隣トラブルと、未来を見据えた予防・相談戦略

問題は借地権者との間だけにとどまりません。
土地所有者として、近隣住民との関係にも配慮が必要です。

隣人からのクレーム対応

借地人の出す騒音、ゴミ出しのマナー違反、隣地との境界線をめぐるトラブルなどが発生した場合、近隣住民からの苦情の矢面に立つのは地主です。法的には、迷惑行為を行っている借地人本人に第一次的な責任がありますが、地主も土地所有者として無関係ではいられません。 対応としては、まず借地人に事実確認を行い、改善するよう注意勧告します。賃貸借契約書に「迷惑行為禁止特約」を盛り込んでおけば、それを根拠に強く改善を求めることができます。度重なる注意にもかかわらず改善が見られない場合は、その迷惑行為が「信頼関係を破壊する」に値するとして、契約解除を検討することになります。

トラブルを未然に防ぐ「契約書」と「定期借地権」

これまでのトラブル事例からもわかるように、最も重要な予防策は詳細かつ明確な契約書を作成することです。更新料、増改築・譲渡の承諾と承諾料、迷惑行為の禁止といった項目は、必ず特約として具体的に記載しましょう。

そして、これから新たに土地を貸すことを検討している場合、絶対に知っておくべきなのが「定期借地権」です。これは1992年の法改正で導入された制度で、契約更新がなく、期間が満了すれば建物買取請求権も発生せず、必ず更地で土地が返還されるのが最大の特徴です。「貸した土地が確実に返ってくる」という、地主にとって最大のメリットを持つこの制度を活用しない手はありません。

困ったときの相談先リスト

借地権の問題は法律、税務、不動産実務が複雑に絡み合うため、一人で抱え込むのは非常に危険です。状況に応じて、以下の専門家に速やかに相談してください。

  • 弁護士: 交渉、調停、訴訟など、法的な問題全般に対応する専門家。必ず「借地・不動産問題に強い」弁護士を選びましょう。
  • 不動産会社(借地権専門): 底地の売買、地代交渉、借地人との調整など、実務的な解決策を提案してくれます。
  • 司法書士: 相続が発生した際の登記手続きや、契約書作成の専門家。
  • 土地家屋調査士: 土地の境界を確定する測量や、建物の登記の専門家。
  • 税理士: 相続税や譲渡所得税など、税金に関する問題の専門家。

結論:現状を知り、法を知ること

地主が抱える苦労は、決して大げさなものではなく、資産を守る上で極めて深刻な問題です。
特に旧法借地権を抱えている場合は、問題がより根深くなりがちです。

しかし、希望がないわけではありません。
借地権や関連法規を正しく理解し、専門家の知恵を借りながら、粘り強く交渉や法的手続きを進めることで、解決の糸口は見えてきます。
借地権者から底地を買い取って完全な所有権を取り戻したり、逆に借地権者に底地を売却して関係を清算したりと、出口戦略は存在します。

最も重要なのは、問題を先送りにせず、一人で悩まず、できるだけ早く専門家への相談という第一歩を踏み出すことです。
それが、あなたの大切な資産と、そしていずれあなたの子孫に残す未来を守るための最も確実な道筋となるでしょう。

株式会社Go不動産(ごーふどうさん)
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